姦姦蛇螺(カンカンダラ)の呪い | ページ 6

姦姦蛇螺(カンカンダラ)の呪い

それから2日後、

AとBはCの母親に連れられて、

ある場所へ向かった。

Cはこの日の前日から既にそこを訪れているとのこと。

目的地は県外だった。

新幹線で数時間かけて移動し、

さらに駅から車で数時間を要する。

辿り着いた場所というのは、

絵に描いたような深い山奥の村。

その村のまたさらに外れに建っている大きくて古い屋敷に案内された。

離れや蔵もあり、大層立派な屋敷であある。

Cの母親が呼び鈴を鳴らすと、

スーツ姿の中年男と、

高校生くらいの色白で華奢な大層綺麗な女の子が奥から出てきた。

彼女は白装束と赤い袴を身に纏い、

まるで巫女のようないで立ちである。

初対面の挨拶の際、

この2人は伯父と姪の関係であることが分かった。

伯父は在り来たりな名前を名乗ったのだが、

姪は違った。

非常に特殊な名前で「葵神女(あおいかんじょ)」と名乗った。

どうもこれは本名ではないようだ。

彼女の家系や素性は外部の人間に教えることができないとのこと。

以下、中年男を伯父、娘を葵とする。

だだっ広い屋内に案内され、

厳かな雰囲気で話が始まった・・・

伯父『息子さんは今安静にさせています。この子らが一緒にいた子ですか?』

Cの母親『はい。この3人であの場所へ行ったようなんです。』

伯父『そうですか・・・』

伯父『君ら、わしらに話してもらえるか?』

伯父『どこに行った、何をした、何を見た、出来るだけ詳しくな。』

Cの母親に話したように、

順を追って詳しく説明していった。

だが、例の楊枝の話になった瞬間、

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伯父『なんだとぉ!?』

広い屋敷中に響き渡るような大声で伯父は怒鳴った!

伯父『おめぇら、まさか「あれ」を動かしたんじゃねえだろうな!?』

身を乗り出し、今にも掴み掛かりそうな勢いだった。

即座に葵はそれを制止し、

蚊の泣くようなか細い声で話し始める。

葵『箱の中央・・・小さな棒のようなものが、「ある形」を表すように置かれていたはずです。』

葵『それに触れましたか?触れた事によって、少しでも形を変えてしまいましたか?』

A『はい。あのぉ、動かしてしまいました。』

A『形も崩れちゃってたと思います。』

葵『形を変えてしまったのはどなたか、覚えてらっしゃいますか?』

葵『触ったかどうかではありません。形を変えたかどうかです。』

AとBは顔を見合わせた。

そして、『それはCだけです。』と答えた。

すると、伯父は身を引いて溜め息をつくと、

Cの母親に言った。

伯父『お母さん、残念ですがね、息子さんはもうどうにもならんでしょう。』

伯父『わしは詳しく聞いてなかったが、あの症状なら他の原因も考えられる。』

伯父『まさか「あれ」を動かしてたとは思わなかったんでね。』

Cの母親『そんな・・・』

それ以上の言葉もあったのだろうが、

Cの母親は言葉を飲み込んで、俯いた。

AとBも同様に・・・

しばらくすると、伯父は溜め息混じりに再び口を開く。

3人があの晩、目撃した存在というのは、

・俗称は「生離蛇螺」もしくは「生離唾螺」

・古くは「姦姦蛇螺」もしくは「姦姦唾螺」

「ナリジャラ」「ナリダラ」「カンカンジャラ」「カンカンダラ」など、

年代や地域・家柄によって様々に呼称されるのだという。

現在で最もポピュラーな呼び方は単に「ダラ」とだけ。

伯父曰く、

彼らような特殊な家柄では「カンカンダラ」と呼称されるとのこと。

これはもはや神話や伝説に近い話だ。

続けて伯父は「姦姦蛇螺」に関する伝説を語り始めた。

人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、

神の子として神通力を代々受け継いでいた、

ある巫女の家に退治を依頼した。

依頼を受けたその家は、

特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。

村人達が陰から見守る中、

巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。

しかし、巫女は僅かな隙を突かれ、

大蛇に下半身を食われてしまった。

それでも巫女は村人達を守ろうとあらゆる術を施し、

必死で立ち向かった。

ところが、

下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、

『巫女を生け贄にする代わりに村の安全を保障してほしい』

と大蛇に懇願した。

強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを快諾。

そして、

『我が喰らいやすい様に巫女を細かくしろ』

と村人達に命じた。

命じられた村人達は巫女の四肢を切り落し、

大蛇は達磨状態の巫女を喰らった。

そうして、村人達は一時の平穏を得た・・・

後になって、

これは巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。

この時の巫女の家族は6人。

異変はすぐに起きた。

大蛇がある日から姿を見せなくなり、

襲うモノがいなくなったはずの村で次々と人が死んでいった。

村の中で、山の中で、森の中で・・・

死んだ者達はみな、四肢のいずれかが欠損していた。

巫女の家族6人を含む、計18人が死亡し、

最終的に4人の村人が生き残った。

伯父はこう続ける。

これがいつから、どこで伝わってたのかはわからんが、

あの箱は一定の周期で場所を移して供養されてきた。

その時々によって、管理者は違う。

箱に家紋みたいなのがあったろ?

ありゃ、今まで供養の場所を提供してきた家々だ。

うちみたいな家柄の人間でそれを審査する集まりがあってな。

そこで決められてる。

稀に自ら志願してくる愚か者もいるがな。

管理者以外にゃ、姦姦蛇螺に関する話は一切知らされない。

付近の住民には、「いわく」があるって事と、

万が一の時の相談先だけが管理者から伝えられる。

伝える際には相談役、

つまり、わしらみたいな家柄のもんが立ち合うから、

それだけで「いわく」の意味を理解するわけだ。

今の相談役はうちじゃねえが、

至急って事で、昨日うちに連絡が回って来たんだ。

どうやら一昨日、

Cの母親が電話を掛けた相手先はこちらではなく、

別の管理者宅であったようだ。

話を聞いた先方はCを連れてこの家を尋ね、

話し合った結果、こちらに任せることにしたという経緯であった。

続く