ヤマノケ「テンソウメツ」

ヤマノケ「テンソウメツ」

これは東北地方のM県とY県の県境にあるT峠にて、

ある父娘が体験した話である。

冬のある休日のこと。

親子水入らずで、

ドライブを楽しむ父と娘がいた。

ごく普通の山道を軽快に走り、

途中のドライブインで昼食を取った。

ドライブインを出発した車は、

目的地を決めることもなく走り出す。

しばらく走ると、

舗装されていない脇道が、

ハンドルを握る父親の視界に入ってきた。

娘を少し怖がらせようと思い、

これへと入り込んで行く。

この時、非常に軽い気持であった。

娘『ちょっと!お父さん、やめなよ!』

娘『早く、さっきの道に戻ってよ!』

娘が制止するも、

その姿が無性に愛らしく思え、

どんどん、どんどん奥へと進んで行ってしまった。

すると、急に車のエンジンが停まる!

父親『まいったなぁ・・・』

娘『もう~だから、お父さん言ったでしょ!?』

修理しようにも父親には車の知識が全く無く、

レッカー車を手配しようにも、

山奥のため携帯電話も繋がらない。

昼食を取ったドライブインに、

歩いて戻ることも考えたが、

何時間要するのか、見当もつかない。

加えて、日も西に傾き始めていたこともあり、

娘を連れて夜の山道を歩くことは危険だと判断した父親は、

これを断念した。

やがて二人は途方に暮れてしまった。

致し方なく、その日は車中泊することにし、

翌朝、明るくなれば、

ドライブインに歩いて向かおうということになった。

やがて、日はどっぷりと沈み、

辺りは夜の闇に包まれた。

時折、風が吹き、

樹木の枝がザワザワと音を立てるぐらいで、

そこはほとんど無音の世界だった。

父親『うう~・・・さみぃ~。』

車内で寒さを凌いでいるうちに、

無駄に時だけが過ぎて行き、

やがて、助手席の娘は眠りに落ちてしまった。

父親『俺も寝るかぁ・・・』

目を閉じ、眠りにつこうとしていると、

どこからともなく、

何か聞こえてきた。

最初は何かの聞き間違いかと自分の耳を疑ったのだが、

やはり、確かに聞こえる。

テン・・・ソウ・・・メツ・・・

人の声なのか、

何かの物音なのか判断がつかない。

だが、幾度となく繰り返し聞こえてくる・・・

テン・・・ソウ・・・メツ・・・

音はどんどん、どんどん近づいて来る。

「何だ?」と思い、

運転席側のサイドウィンドウの先を見た。

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父親『!!!』

暗闇の中から、

全身が真っ白でのっぺりとした何かが、

両腕をブンブン!と振り回しながら、

この世のモノとは思えない異様な動きで、

こちらへ向かってくる!

足は一本しかなく、

ケンケンをするように跳ねている。

やがて、運転席側のドア一枚挟んで、すぐ向こうで、

ピタッと停止した。

あまりの恐怖に、

サイドウィンドウの外を見れない・・・

テン・・・ソウ・・・メツ・・・

父親『ヒッ!』

父親は小さく悲鳴を上げた。

「娘にこれを見せてはいけない!」と思った父親は、

気が狂いそうな程、恐怖心に支配されていたが、

大きな声も上げずに、じっとその場で耐えた。

どれ程の時間、そうしていただろうか・・・

やがて、「それ」は体の向きをクルっと変えると、

停車してある車の進行方向とは逆の方向に歩き始めた。

過ぎ去る間も、

テン・・・ソウ・・・メツ・・・テン・・・ソウ・・・メツ・・・

と、延々と繰り返していた。

やがて、音は遠ざかって行った。

意を決して振り向き、

リアガラスの先を見た。

父親『い、いない・・・はぁーー・・・』

異様な物体の姿が見えなくなり、

安心した父親は娘の方を向き直った。

すると、助手席側のドア一枚向こうの外にヤツが立っている!!

続く