父が拾ってきた人形

父が拾ってきた人形

これはR氏という女性が小学生の頃に体験した話である。

R氏の父親はとにかく貧乏性で、何かにつけて『もったいない』

と家に持ち帰ってきた。

家族全員はそんな父親に呆れていたが、『恥ずかしいからやめて』

と言ってもやめるような性格ではないのを知っていたため、

諦めて彼の好きにさせていた。

父親が拾ってくる物は様々な物だったが、中には

『なぜこんな物を拾ってきたの?』

と言いたくなるような奇妙な物も少なくはなかった。

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その中のひとつが、あの人形だ。

ある日家に帰ると、R氏と妹の共同部屋に見知らぬ人形が置かれていた。

どうせまた父親が拾って帰ってきたのだろう。

R氏『こんな汚い人形を拾ってくるなんて・・・』

と溜め息を漏らしながらその人形を見下ろした。

子供の腕にぴったりと収まるような、よくある日本製のミルク飲み人形。

長い睫にクリクリの茶色い瞳。

ミルクを飲むためにうっすら開かれた唇は、今にも何かを喋り出しそうだった。

新品の状態だったなら、さぞかし愛らしい人形だったことだろう。

だが前の持ち主がよほど手荒く扱ったのか、

つるりとした白い頬には黒のマジックでいたずら描きされ、

寝かせるとぱちりと閉じるはずであろう瞼は片方、

しかも半分しか閉じることができず、

片目が潰れたような酷い顔になっていた。

とても可愛いとはいえないそれを、なぜ父親が持ち帰ったのか理解に苦しむ。

R氏も妹も、もともと昔から人形遊びが好きだったため、

彼女達の部屋には他にもリカちゃん人形やケースに入ったフランス人形、

ぬいぐるみなど沢山の人形達がずらりと飾られていた。

その中に並べられた明らかに異質な人形。

他の人形達は子供の頃から遊んでいた物ばかりだったため、愛着もあり、

そこに置いていて不自然さを感じることなど一度もなかった。

しかし、あのミルク飲み人形だけは違ってた。

彼女はベッドで眠るR氏を物言わぬ瞳で毎晩毎晩じっと見つめているようで、

それはあまり気分がよいものではなかった。

が、父が拾ってきたそれをまた捨てる気にもなれず、渋々部屋に置いていたのだ。

それからしばらく経って、R氏はある奇妙な体験をした。

ベッドの上でいつものように俯せでうつらうつらしていると、

ふと耳元で誰かの話し声が聞こえてくる。

子供の声だろうか?

R氏の耳元、それも物凄く近くでいきなり子供が笑った。

クスクス・・・・クスクス・・・・クスクス・・・・

悪戯を含んだような楽しそうな笑い声。

最初はひとり。

それから小波が広がるようにざわざわと、他の笑い声も響いてきた。

2、3人くらいだろうか。

そのすべてにおいて幼さを含んだ無邪気な笑い声。

暫くするとヒソヒソと何かを話しているのが聞こえてきた。

最初は近所の子が外で遊んでるのかと思えたが、

こんな真夜中に子供が外で遊んでいるわけがない。

ましてや声がするのはR氏のすぐ耳元。

最初は何を話しているのか聞き取れなかったが、

そのうち段々はっきりと聞こえてくる。

『ねてる?ねてる?』

目を閉じていても、自分の顔の真上から覗き込んでいる何者かの気配をしっかりと感じた。

しかも一人じゃない、複数の視線。

突然現れたそれらは、R氏が寝ているかどうかを確認しているようだった。

続く