これは小学校3年生O君の不可思議な体験である。
彼は家族と団地に住んでいた。
彼の住む団地から、おおよその子供達が同じ学校に通っている。
ある日、O君がいつものように友達数人と下校していた時のことである。
自分たちが住んでいる団地に差し掛かった頃、一人の友達が上の方に向かって指をさした。
友達A『あれ、あんな子いたっけ?』
O君は友達が指差す方向を見上げると、マンションの階段踊り場に同い年くらいの男の子2人がこちらをを見ながら笑っている 。
O君『んん~。あれ~?』
O君は不思議に思う。
この地区にいる同年代の子供はだいたい知っているし、
何より年齢も近そうなのに知らないわけがない。
それに、何よりも不思議だったのは、
こちらの集団や友達に向かって笑っているのではなく、
あきらかにO君に向かって、笑っているのである。
O君『なに、笑ってんだよ!』
苛立ちを覚えたO君は5階の階段踊り場から顔を出して笑っている彼らに向けて言い放った。
友達B『あんなやつみたことあるか?』
友達の一人がその場にいた全員に聞く。
友達C『それにあいつら、Oを見て笑ってるぜ』
もう一人の友達が言う。
O君『引越しとかしてきたんじゃないのかな。もう帰ろう』
苛立ちと気味が悪いという複雑な感情だったO君はそう言うと、
早歩きで自分のマンションへ帰った。
次の日。
またいる。
昨日と同じ場所から、O君に向って笑っている。
友達A『今日学校にあいつらいたか?』
O君『いや、みないな』
友達B『学校いってないのかなぁ?』
みんなで話し込む。
ちらっと踊り場のほうに目をやる。
やっぱり自分のほうを見て笑っている。
O君『いいよ、相手にしないで』
O君はそう言うと、また自分のマンションへ帰った。
一週間後。
友達A『あ、Mくんあいつら』
M君『ああ』
O君『今日もいるな』
友達A『やっぱOを見て笑ってやがる』
その日はクラスで一番腕力と勇気があるM君という友達に
一緒に下校してくれるように頼んであったのだ。
M君は団地とは反対方向に住んでるため、いつもは一緒には帰らないのだが。
M君『ふーん・・・』
M君は踊り場の笑ってる二人を見上げる。
M君『んじゃ、ちょっくらいってくる』
M君は走って階段を駆け上がっていった。
M君が5階の踊り場に着いたのがO君達の位置から確認できた。
O君『なんの話ししてんのかなー』
友達A『喧嘩にならなきゃいいけど・・・』
M君と踊り場の二人は、なにやら話している。
と、いきなりM君が笑い出した!
O君『ん、どうしたんだろう?』
友達A『仲良くなったのかな』
ハハハハとM君は、O君に向かって笑い出す。
O君『・・・なんだよ』
O君は嫌な気分になった。
友達A『おい、なんかおかしいぜ・・・ちょっと俺もいってくる!』
別の友達もM君達がいる踊り場に向かって駆けだした。
その友達が踊り場に到着したのをO君は確認した。
なにやら四人で話し始めた。
やはりO君に向って笑い出す。
友達B『んじゃ、俺も』
友達C『俺もー』
次々に上がっていく。
そして、みんなでO君に向かって笑う。
さすがにO君は恐怖を覚え始めた。
O君『いったいなんなんだ。俺がなにしたんだ。どうなってんだよー!』
とうとう階段の下にいるのは、O君ひとりになってしまった。
彼らの笑い声に耐えられなくなったO君は耳を手で覆い、しゃがみこんだ。
O君『やめろー!笑うな!』
O君『おまえら、いい加減にしろぉー!』
ふと笑い声が急に止まった。
先程まで笑い声が発せられていた踊り場に視線を送るともうそこにはだれも居ない・・・
狐につままれたようになったO君はしばらくの間、その場に立ちすくんでいたが、
ふっと我に返って、友達たちを探し始めた。
いた!
なんと彼らは団地にある公園でドッジボールをしていた。
笑っていた最初の二人も仲間に加わって仲良く。
完全に意気投合している様子だ。
O君は怒鳴り声で彼らに向けて叫んだ。
O君『なんなんだよ!おまえら!いったいなんだっつーんだよ!』
O君『なんでそいつらなんかと遊んでんだよ!!』
その場が静まり返る・・・
M君『いやー、なんとなく・・・』
O君は怒りで我を忘れ、叫びながら自宅へと帰った。
それから何日かの間も、友達たちは「笑っていた二人」と遊んでいた。
O君はその期間一人で行動していたが、
ある日突然、「笑っていた二人」が姿を見せなくなった。
O君は『何故、あの時笑っていたのか』と友達に問いただしてみたかったが、
何故か聞いてはいけないような気がして、聞くことはしなかったという。