おかしくなった兄 | ページ 2

おかしくなった兄

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Aは肩をビクッ!とさせ、すくみあがった。

リビングで寛いでいた父親も同様に肩をすくませている。

急いで玄関に向おうとするが、

・・・動かない。

体が全くいうことをきかないのだ。

肩が自分の頬くらいの高さまで上がった状態で、

金縛りにあったかのように身動き一つ取れなくなってしまった。

声も出せない。

辛うじて目だけは動かすことができた。

横目で視界の端に父親を捉えたが、どうやら父親も同じ状態らしい。

リビングから玄関に至る扉は開かれている。

ギシ・・・ギシ・・・・

シャッ・・・シャッ・・・・

玄関から衣擦れの音と共に誰かが迫って来る気配を感じる。

Yさんだ。

・・・いや、Yさんなのか?

黒いワンピースの裾が見えた。

以前、一度だけYさんに会ったことがある。

その時の彼女は清楚なお嬢様風の女性であった。

だが今、Aの目前にいる「それ」は記憶にある彼女の様相とは明らかに異なっており、

全くの別物だった。

サラサラだった長い黒髪はボサボサで寝起きのように不気味に絡まり、

顔の前にもいくつか筋を作って垂れ下がっている。

もともと色白ではあったが、今露出している肌と顔は血の気が失せて青白い。

歩き方は異常なまでに内股で、右腕は横の壁に這わせ、

左腕は前方の空間をまさぐるかのようにブンブン!と振り回している。

そう、まるで暗闇で何も見えない時のように・・・

だが、もちろん屋内の照明は煌々とついている。

故に「それ」の不気味な姿がはっきりと見て取れた。

リビングの扉の前を通過するとき、「それ」はゆっくりAの方に顔を向けた。

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A『ヒッ・・・!』

「それ」の目がおかしい。

文字どおり目がおかしかった。

白目部分が真っ赤に染まっている。

ひどい充血という程度ではなく、血が溜まっているかの如く真っ赤に染まっている。

そして、黒目部分は・・・白い。

正確には白に透明の膜が張ったような、濁ったような白だ。

視線は合っているような気もするが・・・

しかし、焦点が合っているのか定かではない。

以前、映画で見たドラキュラ伯爵の目のようだったが、

今、目前にあるそれはもっと悪意に満ちた、それでいて見ているだけで涙が出るような、

そんな恐ろしい目をしていた。

そして「それ」は恐ろしい目を本当に嬉しそうに歪ませてこう言った。

『・・・嘘ついたら、ダメじゃなぁ~い』

ニターッといやらしい笑いを浮かべた「それ」は、

また正面に顔を戻し、手探りする格好で二階に上がっていった。

兄『うわあぁぁーーーー!!』

しばらくして、兄の絶叫が家中に響き渡り、Aは意識を失った・・・

翌朝、Aは一番に目覚めた。

父親は昨夜の状態で固まったまま、まだ気を失っている。

母親は玄関で倒れていた。

兄の部屋に一人で行く勇気が出なかったAは両親を起こして、兄の部屋に向かった。

ドアを開けた瞬間、「あれ」が振り向き、

ニターッと笑いかける場面を想像してしまった。

ゴクリッ!と生唾を飲みながら、一応ノックをする。

やはり、応答はない。

ドアを開ける・・・

「あれ」は・・・・・・いなかった。

兄は・・・・・生きていた。

だが、「それ」はもう兄ではなくなっていた。

『うぅううーぅ…ぶふふふ…ぶふ…ぶふ…うふふふ…うぉーぅう…』

だらしなく笑いながら口を開け、よだれをダラダラと垂らしている。

焦点は定まらず、首を右回り左回りと交互にクルクルと回している。

A『兄ちゃん!おい、兄ちゃん!』

両親『○○!おい、○○!』

呼びかけても無駄な予感はしたが、呼びかけずにはいられなかった。

そして、その予感は裏切ってはくれなかった。

母親はその場に泣き崩れ、

父親は何か悲しいような怒ったような表情で口をきつく結んでいる。

ああ・・・・兄がおかしくなってしまった。

数日後、両親は兄の大学に退学届けを提出し、兄を入院させた。

もうこのまま、元には戻らないような予感がした。

Yさんは一家で消息を断っていた。

Aの父親は兄を正常な状態に戻すための手掛かりを得るべく、

彼らと接触することを目的に警察と興信所に相談し、その行方を追っている。

両親に嘘をついて兄と旅行に行ったYさんは、

その嘘を両親に暴かれ、あのような姿に変えられてしまったのであろうか・・・

もしそうであるならば、Yさんの家系は何かおかしな血筋だったのではなかろうか。


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