これは心霊体験などしたこともない男の子Rの話である。
彼の母親の生家はF県のとある村にあった。
学校の夏休みと冬休みには母親の帰省についていくのが、
毎年の慣例となっていた。
母親の生家は元々、旅館業を営んでいたのだが、
この頃には既に廃業していた。
Rの寝室は毎度決まっており、
かつて客室として使用していた1階の一部屋である。
設置されているテレビというのはブラウン管の物で、
モノクロの映像しか映さない。
扇風機も年季が入っており、タイマー機能などもなかった。
そんな古めかしい備品で埋め尽くされた部屋である。
Rはその旅館で名前も知らない女の子と毎年遊んでいた。
女の子は水玉のワンピースを着用し、オカッパ頭。
不思議なことに、夏も冬も全く同じ服ばかり着ているのだ。
彼女はいつも旅館の中庭にある小屋から出てきては、
『鬼ごっこしよ!』と誘ってきていたため、
彼らは旅館の敷地内でよく鬼ごっこをして遊んだ。
この女の子と初めて知り合ったのはRが幼稚園児の頃。
年月を重ねるごとにRは成長し、
身長もすくすくと伸びていき、
やがて、女の子の背丈を追い越したのだが、
一向に彼女の体格の変化は感じ取れなかったのだという。
Rは「この子はなんで大きくならないんだろう?」と、
ある時から、不思議に思うようになった。
Rが小学4年生の夏を境に、
女の子はパタリと姿を見せなくなった。
それ以降、一度も会うことはなかったのだという。
大人になったRがこの体験を思い起こした際に、
あれは心理学や精神医学で言うところの、
「イマジナリーフレンド」というものだったのかもしれないと結論付けようとしたのだが、
それでは筋が通らなかった。
そもそも「イマジナリーフレンド」というのは、
本人の空想の中だけに存在する人物であり、
周囲の人間は一切認識していない存在なのだが、
この女の子については、
彼の祖父も子供の頃に同じ背格好、
同じ服装の女の子と鬼ごっこをして遊んだ記憶があると言うのだ。
しかし祖父もまた、彼女の名前については覚えていないとのこと。
そして、彼もまた小学4年生の頃を境に、
彼女を見掛けなくなったのだと言う。
後になって、知らされたのだが、
女の子がいつも出てきていた中庭の小屋の中には、
古い石碑が立っていたのだという。