鏡に映ったカマキリ女

鏡に映ったカマキリ女

アミューズメント複合施設でアルバイトをしているU子氏の体験談である。

この施設のビルは古い建物で、

改築をした際に異様な造りになってしまった。

もともと4階のフロアには女性用トイレしかなかったのだが、

その改築のせいで、トイレの前に大きな柱が設置され、

入り口が通路から全く見えなくなってしまったのだ。

これが原因で施設のスタッフは、

頻繁に来場客からトイレの場所を尋ねられるようになった。

対策として、

4階の女性用トイレの場所を示す大きな案内板が至る所に設置されたのだが、

来場客からトイレの場所を尋ねられる頻度が減らなかったため、

トイレの入り口が映る角度に大きな鏡が設置されることになった。

ある日、U子氏が建物内を巡回していると、

鏡に奇妙な女が映っているのを発見した。

それはロボットのような歩き方で、足を引き摺るようにして、

4階の女性用トイレからズッ、ズッ、と出て来る。

加えて、その女の手はカマキリのように長かった。

驚いてトイレの入り口を見ると、そんな女は何処にも居ない・・・

が、もう一度鏡を見るとやはり映っている。

そして鏡の中で、U子氏に抱きつくかのような仕草で覆い被さろうとしていた。

驚きのあまり『アッ!』と叫ぶとそれは消えた。

それから数日後、U子氏が例の4階女性用トイレで清掃作業をしていると、

洗面台に指輪の忘れ物があるのを発見した。

それはダイヤが花のようにデザインされており、

そこそこ高価な感じのする、よくあるファッションリングだった。

U子氏は落し物の記録をつけて、事務所の保管箱に入れ、処理したのだが、

その指輪のことが少し気になっていた。

それから約1ヵ月後、U子氏は店内で女性に声を掛けられた。

女性『指輪の落し物はなかったでしょうか?』

デザインなど特徴を尋ねると、

彼女が1ヵ月程前に例のトイレで拾得した指輪と酷似していたため、

例の指輪を取りに事務所に戻った。

U子氏『この指輪で間違いありませんか?』

指輪を手渡すと、女は奇妙な表情に変わった。

女性『これ・・・どこにありましたか?』

U子氏『当施設の4階女性用トイレですけど・・・』

女性『案内してもらえませんか?』

そんなやり取りをして、U子氏は例のトイレへその女性を案内した。

そこで奇妙な話をその女性から聞かされることになる。

その女性曰く、指輪を失くしたは、

この施設から電車で30分程の距離にある別の町のレストランとのこと。

とても大切な指輪だったため諦めきれず、

占い師に場所を占ってもらったところ、

この町の名前と、「人が集まるにぎやかな場所だ」と告げられたのだそうだ。

とりあえず告げられた町の一番大きな駅で降り、

一番最初に目に付いた「にぎやかな場所」である、

このアミューズメント施設に目星をつけて来てみることにしたそうなのだが、

彼女はそれまで一度もこの施設に立ち寄ったことがないのだという。

果たして、この指輪の一件と、

鏡に映ったカマキリ女とは何か因果関係があるのだろうか。