G氏の母親の友人に古くから親交のあるラーメン屋の店主が居た。
彼はI県のとある場所にて店舗を構え、
それを営んでいた。
建物は年季が入っており、老朽化が進んでいる。
G氏が幼少の頃、母親に連れられて、
よくそのラーメン屋を訪れていた。
というのも母親はこの店で、
アルバイトとして雇われていたのである。
加えてG氏には妹がおり、
彼女も一緒にラーメン屋について来ていた。
G氏達が遊びに行くたびに、
ラーメン屋の店主であるおじさんがいつも遊んでくれていた。
彼は喘息を患っているのか、いつも咳き込んでいる。
しかし、G氏達にはとても優しく接してくれており、
彼らはおじさんのことが大好きだったのだ。
ラーメン屋の構造は、
入ってすぐの所が店舗、その奥が厨房、
さらにそのまた奥におじさんの住まいである茶の間や寝室、
風呂トイレがある。
2階は物置として使われており、
G氏達はそのスペースで遊んでいた。
2人して、1階にいるおじさんを呼ぶと、
すぐ2階に上がって来て、相手をしてくれる。
物置に保管されている物品について説明してくれたり、
かくれんぼに付き合ってくれたり・・・
そんな事が何回か続いたある日のこと。
母親が店舗で働いている傍ら、
G氏達は毎度のように、2階からおじさんを呼んだ。
G氏達『おじちゃーん!あーそーぼー!』
おじさん『はいはい。ちょっと待ってねー。』
間もなくして、おじさんが2階に上がって来て、
いつも通り遊んでくれる。
G氏達『今度はおじちゃんが鬼ね!』
おじさん『はいよ。』
無精髭が目立つ、いつもの優しい笑顔。
2人はこの笑顔が堪らなく好きだった。
そう、大好きだった・・・
G氏達『鬼さんこちら!手の鳴るほうへ!』
2人はドンドンドンと階段を駆け下りて行く。
母親『こら!あんた達!静かに遊びなさいな!!』
母親『もう騒ぐでないよ。』
母親は店の客のほうを見ると、
母親『お客さん。ごめんなさいね。』
客『いやいやいや。気にせんで。子供は元気が一番!なっ!がっはっはっは!!』
母親『ところで、あんた達、2階で何してたのさ?』
G氏『おじちゃんに遊んでもらってた!』
急に母親と客はきょとんとした顔になった。
母親『そ、そうかい!静かにするんだよ。いいね!』
G氏達『はぁ~い。』
母親『お客さん。ごめんなさいね。子供の言うことだからさ。堪忍しとくれよ。』
客『い、いいってことよ・・・』
その日を境に母親はラーメン屋のアルバイトを辞めた。
従って、2人もラーメン屋に行くことはなくなった。
それから年月が経ち、G氏は成人し、
実家を出て、就職した。
G氏が帰省した際に例のラーメン屋の話が持ち上がった。
G氏『かあちゃん。そういえばさ、ラーメン屋のおじちゃん、まだ元気してる?』
G氏『久しぶりに会いてえなー。』
母親『・・・』
G氏『なっ!折角だし、明日行こうよ!おじちゃんとこ。』
母親『そういや、言ってなかったっけかね。』
G氏『なになに?なにを?』
母親『あんた達を最後に連れてった日、覚えてるかい?』
G氏『覚えてるよ。かあちゃんにこっぴどく怒られた日だろ?』
母親『ああ・・・おじちゃんはね、あの前の日に亡くなってるんだよ。』
母親『あの日だけ、仕方なく店を開けることにしたんだけどね・・・』
G氏『えっ・・・?じゃー・・・あの日』
母親『おじちゃん、最後に遊んでくれたんだろうね。』