家庭用据え置き型ゲーム機のファミリーコンピュータが発売されて間もない頃、
W氏は小学生だった。
近所に大学生のいわば、お兄ちゃんのような存在のI氏が住んでいた。
彼は地元の国立大学に通っていて、穏やかな人物であったため、
W氏の母親が気に入り、I氏に家庭教師をしてもらえるよう依頼したのである。
これがきっかけとなり、二人は仲良くなったのだった。
ある日のこと、W氏はI氏がファミリーコンピュータを所有していることを知り、
W氏を含め、近所の友達2、3人でI氏の自宅へ頻繁に遊びに行くようになった。
子供数人がゾロゾロと押し寄せてきても、嫌な顔ひとつせずに、
一緒にゲームに興じてくれる本当に面倒見の良い大学生であった。
そんな日々を重ね、半年ほどが経過した頃からI氏の様子がおかしくなり始めた。
W氏達が遊びに行っても、ずっと誰かと電話をしていて、
まったく構ってくれなくなったのだ。
加えて異常だったのは電話をしているのだが、I氏が一言も喋らないのだ。
ダイヤルを回して、受話器を耳に当てたまま一言も発しない。
しばらくすると受話器を置き、再びダイヤルを回す。
これを延々と繰り返している・・・
そんな状態が数日続いたことで、W氏達は次第にI氏に対して、
恐怖心を抱くようになっていった。
友達がファミリーコンピュータを購入してもらったということもあり、
その友達の家に遊びに行くようになって、I氏から距離を置くようになった。
同時期にI氏から『大学の勉強が忙しくなってきたので、家庭教師を辞退させてほしい』
という旨の連絡が母親宛に入った。
それから数ヶ月が経った、ある日のこと。
W氏は母親と午後のワイドショーを見ていた。
W氏『あれ?かてきょの兄ちゃん、テレビ出てる!』
W氏『かあちゃん!兄ちゃん、有名人になったんだね!すごいや!!』
母親『・・・・・。』
これは後にわかったことだが、
I氏は当時(W氏達がよく彼の家に遊びに行っていた頃)、
交際相手だった女性に一方的に別れを告げられたことを発端として、
彼女に対して嫌がらせや、ストーカー行為を重ねており、
最終的にその女性を殺害してしまったのだという。
そう、あの時の電話はかつて交際していた女性に掛けられていたものだったのだ。