異臭の漂うクラスメイトの家

いつも遊んでいる悪ガキグループの中で、

ちょっとした喧嘩をして孤立してしまった小学生T君の話である。

 

 

 

ある日の放課後、T君が一人で本屋で立ち読みをしていると、

同じクラスの全然目立たない男子P君が、

同じく立ち読みしていることに気付いた。

 

T君は彼に声を掛け、

話しているうちに、一緒に遊ぶことになった。

 

『公園で遊ぼう』ということになり本屋を出たものの、

公園へ向かう途中で雨に降られてしまった。

 

T君『くそー、雨降ってきやがった。』

P君『だねー。じゃー俺んち、来る?』

 

P君の自宅がこの近くにあるということで、

急遽予定を変更し、

彼の家で遊ぶことになった。

 

普段は誰も遊びに来ることがないらしく、

P君はこの時、大層喜んだ。

 

P君『きっまりー!』

 

 

P君の家は古い平屋で狭くはないが、

あまり掃除をしていないようで、

家の中は散らかっており、ゴミ等が散乱していた。

 

T君『うわっ!おまえんちって・・・』

P君『ささ、遠慮しないで、あがって、あがって!』

P君『みんな、玄関まで来ると帰っちまうんだよ。変だよな~。』

T君『そりゃ、そうだろ・・・』

P君『えっ!?なんか言った?』

T君『い、いや、なんでもねーよ・・・』

 

そのままP君の部屋に通されたのだが、

玩具やゲームといった遊び道具の類が一切ない。

 

T君が途方に暮れていると、

P君がトランプを持ってきた。

 

P君『神経衰弱とか七並べやろうぜ!』

T君『あ、ああ・・・』

 

 

暫く2人で遊んでいると、

P君の母親が麦茶を持って来てくれた。

 

母親『あら~お友達?T君って言うの?ゆっくりしてってね。』

T君『はい。ありがとうございます。』

 

男の本能というやつだろうか、

この時、T君は子供心に「やけに色気のあるおばさんだな。」と思った。

 

 

T君は差し出された麦茶を一口、

口に含むと固まってしまった。

 

T君「ま、まずい・・・なんだこれ?ほんとに麦茶か、おい。」

 

それは苦く、しょっぱく、おまけに程良いとろみがついていた。

この時、当時流行していた「まずい!もう一杯!」のCMがT君の頭をよぎり、

何だか笑えてきた。

 

T君『二杯目はいらねーよ』

P君『ん?なんか言った?』

T君『いや、なでもねー。』

P君『そ、続きやろーぜ!』

 

やがて麦茶の周りに小蠅がたかり始めると、

それはグラスの中に侵入した。

 

T君『げっ!』

 

しかし、これが麦茶を飲まないという良い口実になった。

 

 

外は尚も雨が続いているのに、

家の中は電気代をケチっているのか、なんとも薄暗い。

そんな状態でトランプ遊びは続いた。

 

 

途中、何となくP君の家族の話題になった。

なんでも父親は仕事の関係で遠方に単身赴任しており、

現在、母親・妹・寝たきりの祖父と4人で暮らしているのだという。

 

T君『母ちゃん以外に人居たんだ~』

P君『妹はまだ学校だけど、爺ちゃんがね。』

T君『へ~・・・』

 

 

そうこうしているうちに夕方になり、

雨も止みつつあったので、

そろそろ帰ることにした。

 

T君『帰る前にトイレ借りたいんだけど。』

P君『トイレ?あ、う、うん、いいよ・・・』

 

P君は何だかトイレを貸すことが気乗りしないようで、

渋々トイレの場所を教えた。

 

 

一階の少し長い廊下の突き当たりにトイレがあり、

右手が襖の部屋になっている。

 

トイレ付近は鼻がもげそうなくらい強烈な異臭を漂わせていた。

息を止めていても異臭は強引に鼻の中に入ってくる。

 

T君『うっ!やべえー。』

 

トイレのドアノブに手を掛けた瞬間、

右手の襖の中からコツッコツッと、

何かをぶつけるような音が聞こえてきた。

 

気になったT君は悪戯心もあり、

しゃがんで細く襖開けて部屋の中を覗いてみた。

 

すると部屋の中は明かりもなく、真っ暗な闇。

僅かに差し込む廊下の明かりで、

部屋の様子がぼんやりとだが把握できた。

 

 

奥に布団が敷いてあり、誰かが寝ている。

だが、様子がおかしい・・・

寝ている人の顔には布が被せてあるように見えた。

 

暗闇に目が慣れてくると、

部屋中、大きな蝿が大量にブンブン飛び回っていることにも気付いた。

 

床にも何やら小さな虫のようなものが、

うじょうじょと無数に這いずり回っている。

 

コツコツという音の正体は、

大きな蠅が襖にぶつかる音だということがわかった。

加えて、異臭の発信源がこの部屋だということも・・・

 

 

T君は子供心に「ヤバい!」と思い、

直ぐに襖を閉めた。

 

立ち上がろうとすると、

すぐ横に母親が立っていて、

さっきとは別人のような怖い形相でこっちを見下ろして睨んでいる。

 

T君『あっ、あの、トイレ・・』

母親『トイレはこっちよ』

T君『あ、はい。す、すいません。』

 

 

トイレを済ませると、

T君はそそくさと退散した。

 

 

帰宅するとT君の母親が、

 

T君の母親『今日はどこで遊んでたの?凄く臭いよ、あんた。』

T君『P君んち。』

T君の母親『・・・・』

 

しばらく無言の後、母親はこう続けた。

 

T君の母親『P君とはあまり遊ばない方がいいかも。』

T君の母親『あそこのお母さん、変な宗教に入ってるみたいだから・・・』

 

 

 

T君が普段遊んでいる近所でも有名な悪ガキ仲間については、

一切口出しをしない母親だったが、

この時だけは違ったのだという・・・

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