Qちゃんは幼いころから、祖母にこう言い聞かされてきた。
『窓に無暗に近づいてはいけないよ』と。
ガラスは昔の人の定義で言えば、
固体ではなく「非常に粘度の高い液体」という具合に認識されていた。
そのため、ある一定の期限がくると粉々に砕け散るという、
不安感を持っていたのかもしれない。
従って、無暗にガラスに近づいて子供達がケガをしないように、
戒めの意味でこういう教えがなされてきたようだ。
Qちゃんの学校ではビー玉弾きが流行していた。
だが、この遊びをする度、
彼女は、
「勢いよくカチンとやって、今が期限だったらどうしよう!」
とビクビクしながら遊んでいた。
そんなある日、
Qちゃんが仲良くしていたクラスメイトのKちゃんが転校することになった。
引っ越し当日、Kちゃんの家に見送りに行くQちゃん。
Qちゃんが悲しくて泣いていると、
Kちゃんはすっと手を差し出してきた。
差し出された掌を見ると、
Kちゃんが一番大切にしていたビー玉が乗っている。
Kちゃん『これあげる!』
Qちゃん『え、でもぉ・・・そんな大切な物もらえないよぉ』
Kちゃん『いいから、あげるって!ほら!』
そう言って差し出してきたビー玉は、
日頃、Kちゃんがとても大事にしていて、
弾き遊びにも絶対に使わない宝物のビー玉だった。
Kちゃん『太陽にかざして、この玉の中を見て!』
そう言われて、
Qちゃんは太陽の光にかざして玉の中を覗き込んだ。
すると玉の中心に炎のようなものが見えるではないか。
驚いたQちゃんは思わず、こう言った。
Qちゃん『あっ!中でなにか燃えてるよ!』
Kちゃん『でしょ。すっごくキレイなんだあ~。』
Kちゃん『これを私だと思って持ってて。私がどんなに元気かいつでもわかるから!ねっ?』
Qちゃん『ありがとう。大切にするね。』
そんなやり取りの後、彼女は出発した。
月日が流れ、
Qちゃんは高校生になった。
Kちゃんから貰ったビー玉のことをすっかり忘れていたQちゃんは、
部屋の掃除をしていた時に、たまたま彼女から貰ったビー玉を見つけた。
あの日のことを懐かしく思い出しながら、
太陽の光にそれをかざしてみた。
しかし、いくら覗き込んでもあの炎のような輝きは見えない。
「あれは幻だったのかな・・・子供だったし何かを見間違えたのかも」
そう思ったが、気になったものだから、
しばらくの間、座布団に乗せて机の上に置いておくことにした。
ある日、Qちゃんが学校から帰宅すると、
Kちゃんのビー玉は砕けて砂になってしまっていた。
これを見た時、
Qちゃんは「ああ、期限がきちゃったんだな。」と思い、
一筋の涙が頬をつたったのだという。