不思議な夜宴

不思議な夜宴

I氏は旅行先で急に予定を変更せざるを得なくなり、

日本海沿いの、とある歴史の古い町に一泊することにした。

急な予定変更ということもあり、もちろん今夜泊まる宿など決まっていない。

そうこうしているうちに、日が西の空に落ち始めた。

これはまずいと思ったI氏は一番最初に目についた旅館を当たることにした。

シーズンオフであったため、問題なく宿を確保することができ、一安心した。

外観を見た時には気がつかなかったのだが、

内装や調度品を見る限り、とても格式高い旅館のようであった。

チェックインを済ませ、客間へ案内される。

長い廊下をひたすら歩き、

通された部屋は柱が黒光りしており、古くて立派な部屋だった。

畳や調度品も新しく、清潔且つ快適な部屋だった。

加えて、従業員もとても愛想がいい。

「これは大当たりだな。」

I氏は心の中に沸々と喜びが湧いた。

心霊話にあるような嫌な気配だとか、寒気などはもちろん感じなかった。

とは言え、I氏は霊感など全くないのだが・・・

夕食を済ませ、露天風呂に浸かって、さあ、後は酒を喰らって寝るだけ。

と部屋で寛いでいると、

窓の外から何やら賑やかな音がする。

「おや?」と思い、カーテンの隙間から覗いてみると、

植え込みの向こうに大きな離れのような建物が見えた。

どうやら、そこの座敷で宴会をしているらしい。

明日の出立は早くを予定していたため、

「これ以上、騒がしくしないでくれよ~。」

なんて思いながら、床に着いた。

布団に入り、うつらうつらし始めた頃、三味線の音が耳に入った。

チントンシャンテントン・・・チントンシャンテントン・・・

I氏『おいおい、こんな時間まで・・・勘弁してくれよ~。』

I氏『明日、早いのによ~。』

独り言を言いながら、再びカーテンの隙間から、例の離れを覗いた。

すると芸者らしき2人が、

ゆったりと優雅に舞っている様子が障子越しに見て取れる。

I氏『ほう。いまどき、風流だな。』

先程とは一転し、興味が湧いたものだから、よくよく耳を傾けてみると、

手拍子ひとつ、笑い声ひとつ取っても、なんとも言えない品がある。

I氏『ウチの会社のセクハラおやじどもが酔っぱらって、カラオケをがなり立てる下品な宴会とは大違いだ!』

I氏『今でもこういう趣のある上品な遊び方をする人達がいるんだな・・・』

と、独り言を呟きながら、陽気さのお零れに預かった気分で酒を喰らい、

ほろ酔い状態の体をぬくぬくと丸め、

夜が更けてますます盛り上がる夜宴の賑わいを遠くに聞きながら眠りに落ちた。

翌朝、窓の外を見ると、狐につままれたような気分になった。

植え込みの向こうには有刺鉄線が張られた雑草の蔓延る空き地が寒々と広がるばかりで、

昨晩見た、離れの座敷のような建物は影も形も見当たらなかった。

「もしかすると、あれは狐達の夜宴だったのではないか」

と、I氏は語る。