ある夏の深夜、男二人がドライブを楽しんでいた。
いつもの海沿いの国道を流していると、新しくできたバイパスを発見する。
それは山道で、新しくできる造成地へと続いているようだった。
ちょっと行ってみるかということになり、30分ほど車を走らせたのだが、
どうやら迷ったらしい・・・
引き返そうにも、途中から林道に入り込んでしまい、どこで分岐したのか分からない。
また深夜ということもあり、周囲は辺り一面が夜の闇。
それでも何とか舗装道路に出ることができた。
幸い照明灯もあり、少しカーブになった場所で車を止め、地図を確認することにした。
友人が地図を見ている間、
L氏は缶コーヒーを買おうと停車位置から見えた自動販売機に向かった。
後から考えると、非常に不思議なことだった。
車も通らない、民家もないような場所に、その自動販売機はポツンとあった。
「道路灯があるのだから、電気は来ているのだろう。」
その時はその程度にしか考えていなかった。
自動販売機は稼働していたが、大半が売り切れだった。
無理もない。
こんな辺鄙な場所ゆえに、業者も補充に来ないのだろう。
コーヒーのボタンを押すと、赤いランプが点灯する。
喉が渇いていたため、とにかく端から順に販売中のボタンを押していった。
しかし、押せども押せども売り切れ表示。
その間、2、3分くらいだったろうか。
最後のボタンを押し終えると、振り向きざまに車中にいる友人に声をかけた。
20メートル程の距離があった。
友人の姿が見えない。
急いで車に戻ると、車内はもぬけの殻だった。
友人は忽然と姿を消している。
辺りを見回して、大声で叫ぶが、自分の声だけが響き渡った。
友人がどこへ行ってしまったのか見当もつかず、車内で待つことにした。
不安を紛らわすため、カーラジオをつけたが、電波状態が悪く受信しない。
カーステレオのカセットは電源が入らない。
しばらくするとラジオのノイズが急に大きくなった。
ザザッ!ザーーーーー、ザザザザッ!!
瞬く間にに耳が痛くなり、手で塞いでも雑音が頭に響いてくる。
もう限界だ!
脳がノイズをシャットダウンするかのようにL氏は気を失った。
明け方、友人の声で目が覚めた。
L氏は昨晩、何が起こったのか分からなかったが、
友人も相当混乱しているのが見て取れた。
少し落ち着いて、お互いの身に何が起こったのかを話し合った。
友人は、L氏が自動販売機の前で苛立っているのを眺めていたそうだ。
そして、L氏が最後のボタンを押した瞬間、
L氏の姿がパっ!と消えたのだという。
驚いて車から出ようとしたが、ドアロックを解除できずにいると、
やがてラジオが鳴り出した。
L氏も体験したあの耳をつんざくような不快な音にやられ、
瞬く間に失神したのだという。
L氏『それより、ここどこだよ』
彼らは山中の空き地らしき場所にいた。
もう道路などそこにはなかった。
幅一車線もない獣道を辿って、ようやく車道に出た。
この間、二人ともほぼ無言だった。
友人『どうやら、俺ら昨日の場所から50キロも離れた所にいるみたいだな・・・』
友人は道路標識を見ながらそう呟く。
磁場の強い場所では時空の歪みや電波障害などが発生しやすく、
彼らが体験したような現象が時たま発生するのだという。