卓球部員のHという中学生がいる。
彼の卓球の腕はお世辞にも上手とは言えない。
また、上達しようという向上心も彼にはなかった。
一応、部活には顔を出すものの、
卓球部の落ちこぼれ達と遊んでるだけ・・・
練習にもほとんど取り組んではいなかった。
時間を持て余し、
特段これといってすることもなかった彼は、
暇つぶし感覚で入部したのである。
ある休日練習の日に異変は起こった。
この日は部員同士でトーナメント試合をすることになっていた。
卓球台が並べられ、
入口から見て奥に行く程、上級部員、
手前に来る程、下級部員という具合に、
手前から奥に向かって勝ち抜いていくという練習方法だ。
Hは卓球部員の落ちこぼれの中でも取り分け、
下手だったため、
いつもは下級グループで適当にサボりつつ、
時間を潰していた。
だが、この日だけは違った。
何故だか分からないが、
その日に限って頻繁にスマッシュが決まる。
スマッシュの練習など一度も真面にしたことがない彼が・・・
明らかに自分のフォームはおかしい。
ラケットのラバーも殆ど交換したことがなく、
メンテナンスは不十分だった。
にも関わらず、調子よく勝ち抜いていく。
普段は打ち返せないような相手のスマッシュでさえも、
問題なく打ち返すことができた。
やがて、無敗で最上級クラスまで昇り詰め、
最終的に顧問の教師と試合することになった。
教師に勝ってしまえば、
大会に出場することになる。
これを「面倒だ」と考えたHは、
わざと負けた。
だが、この試合でも教師が返す球が、
まるでスローモーションのように見えていたのだと言う。
これを機に明日から真面目に練習に取り組む覚悟を決めたのだが、
次の日には、すっかり元の下手な腕前に戻ってしまっていた。
これは後になって分かったことだが、
以前、この卓球部には練習中に命を落としてしまった部のエースがいたとのこと。
もしや、
あの日Hは、エースの霊をその身に宿していたのかもしれない。