F氏はある日の夕食を、
近所の中華料理店でラーメンを食べて済ませた。
F氏『すみませーん。お会計お願いします。』
店主『いや、いらないよ・・・』
F氏『えっ・・・!?』
店主『今日でお店終わりなんだ。あんたが最後のお客さん・・・』
店主『今まで贔屓にしてくれてありがとうね。これ、お土産。』
と言って、店主は折詰めを2つ差し出してきた。
一瞬、F氏は戸惑ったが、
それを受け取ることにした。
F氏『そうですか~・・・とても残念です。』
F氏『お土産までもらっちゃって、なんかすみません。有難く頂戴します。』
F氏『長い間、お疲れさまでした。』
店主『ありがとう・・・』
店を出て、頂いた折詰めの中を確認すると、
餃子やら春巻やら唐揚げやらが、
所狭しと詰まっている。
とてもじゃないが、
一人では食べきれない程のボリュームであった。
「なんだか得しちゃったな」と、
嬉しい気分になってきたF氏は、
友人Sに電話を掛けることにした。
事の経緯を説明し終えると、
F氏『今、俺んとこに来たら、中華オードブルがたらふく食えるぜ!』
と、友人Sを自宅に誘った。
すると、しばらくの無言の後、
彼はこう返してきた。
友人S『その折詰めの中身、もう食ったのか?』
F氏『いんや、食ってないよ。なんで?』
友人S『いいか、絶対食うなよ!それから、絶対アパートに戻るな!わかったか!?』
友人S『わかったか!?』
友人S『そうだな・・・これから駅前のコンビニに向かえ!車で迎えに行ってやるから。』
F氏『何?どうしたの?言ってる意味がよくわからないんだけど・・・?』
友人S『説明は後だ。人のいる所が安全だ。コンビニに着いたら電話くれ・・・』
F氏『えっ!?あ、ちょっと・・・』
ツーツーツーツー・・・
友人Sは一方的に電話を切った。
止む無くF氏は駅前のコンビニに向かうことにした。
そして到着するなり、
改めて、友人Sに電話を掛けた。
F氏『コンビニ着いたけど、さっきの何だったの?』
友人S『こっちももうすぐ着く。誰かに後を付けられたりしてないか?』
F氏『大丈夫か?さっきからお前・・・』
友人S『それはこっちの台詞だ。』
ツーツーツーツー・・・
またしても友人Sは一方的に電話を切った。
それから一時間程、コンビニの前で友人Sを待ったが、
彼は一向に現れなかった。
加えて、電話も繋がらない・・・
彼が言った、
『絶対アパートに戻るな!』
という言葉が妙に頭に残っていたため、
その日はネットカフェで朝まで過ごすことにして、
始発で実家に帰った。
その後、友人Sは消息不明となった。
彼と幼馴染である友人Tにも問い合わせてみたが、
『わからない』の一点張りで、
一向に彼の消息は掴めなった。
それから、F氏は実家で半年程過ごしたのだが、
さすがに居づらくなった彼は、
自分のアパートに戻ることにした。
戻ってみると特段、異常は見られなかった。
ある夜のこと。
F氏がアパートの部屋で弁当を食べていると、
隣人である初老の女が訪ねて来た。
隣人『もう、大丈夫なの?』
F氏『なんで、知ってるんですか!?』
隣人『なんでって、それはあんた・・・』
隣人『夜中にガラの悪い男が、あんたの部屋のドアやら壁やらをガンガン蹴ってたんだよ。』
隣人『あたしゃ、もう怖くて怖くて・・・』
隣人『だから、借金かなんかで金貸しとトラブったのかと思ってたのよー。』
隣人『しばらく、あんたの顔も見なかったしねぇ。』
隣人『でも、あんたも戻って来たんだし、これ以上は詮索しないよ。』
F氏『あの、それって、いつ頃のことですか?』
隣人『8月の終わり頃と、先週くらいかな。』
隣人『先週のはしつこく蹴ってたから、さすがに大家さんが「警察呼ぶぞ!」って言ったら、すぐ引き上げたみたいだけどねぇ。』
隣人『・・・・もしかして、知らなかった?』
F氏が苦笑いで頷いくと、隣人は無言で出て行った。
それを聞いたF氏はすぐさま部屋を引き払い、
次の部屋が見つかるまでの間、
カプセルホテルを転々とすることになった。
それから数週間後、
F氏の携帯電話に別の友人Tから連絡が入った。
内容は消息不明だった友人Sが、
自宅の車庫で首吊り自殺を図っていたとのことだった。
友人T『お前に嘘をついていたことを、まずは謝る。』
友人T『実は俺は、お前からSのことを聞かれた時には、すでにアイツが自殺したことを知っていたんだ。』
F氏『なんだって!?どうして・・・?』
友人Tはこう続ける。
通夜の晩、俺はSの親御さんに呼ばれて、
別室で話をしたんだが。
親御さんがおっしゃるには、
自殺する理由がどうしてもわからないそうだ。
で、『あなた、何か知らない?』って聞くもんだから、
俺も『まったく思い当たることがない』と答えた。
すると親御さんは、アイツの携帯電話を俺に見せたんだ。
それを握りしめたまま息絶えていたそうだ。
遺書らしき物なかった・・・
「もしかすると、この携帯電話に何かメッセージがあるのでないか」
そう親御さんは考えて、
俺に確認してくれとおっしゃった。
確認すると、
録音もメモも無し。
次に発信履歴を見たんだが・・・
そこには、●●●という名前がずらっと並んでいた。
だが、それは全部不在だった。
Sは多分、自殺する直前まで、
●●●に電話を掛け続けていたんだろう。
さらに、着信履歴を見たら、
そこには、お前Fの名前があった。
俺は正直に、親御さんに説明した。
「Fという友人から電話があり、
しばらく会話した後、
Sは●●●に電話を何度も掛けたが繋がらなかったようです。
そして、Sは間違いを犯した・・・
その後、FがSに何度か電話を掛けてきています」
とね。
親御さんに、お前のことと、
●●●について聞かれた。
お前のことについては知る限りのことを話したが、
●●●については知らないと答えた。
●●●というのは、
あの中華料理店の名前だ。