異常のないエレベータ

とある女性A子氏が出産のため、

最寄りの病院に入院していた。

 

 

これは子供を出産し終えた数日後のことである。

A子氏は深夜に自身の赤ん坊が、

鼻詰まりが原因で妙な呼吸をしていていることに気付いた。

 

心配に思った彼女は我が子を抱きかかえ、

1フロア下のナースステーションへと向かった。

 

産後ということもあり、

階段で降りるのが辛かった彼女は、

エレベータを使用することにした。

 

エレベータに乗り込んで、階数ボタンを押す。

扉が閉まり、籠が下降し始めた瞬間、

急に稼働音が消え、籠内がうす暗くなった。

 

「あれ故障?非常ボタン押せばいいのかな?」

と思っていると、

 

 

『うーんうんうんうんうんうんうん・・・』

 

と、耳元で男が唸るような声がした。

 

 

「怖い!」と思うより先に、

体中の毛が逆立つような電撃が背中を走った。

咄嗟に彼女は扉の開閉ボタンを押そうとしたのだが、

手元は霧が掛かったようにモヤモヤとしており、

ボタンの場所を把握できない。

 

 

次の瞬間、

薄目を開いた我が子が、

 

 

赤ん坊『キエーーーッ!!』

 

と、中年女のような太い強い声で、

叫んだ!

 

何が起こったのか全く理解できなかったA子氏は、

パニック状態に陥った。

 

赤ん坊は尚も叫び続ける。

やがて、正気を取り戻したA子氏は、

 

A子氏『よーしよし。いい子、いい子。』

 

と、頭を撫でてやると、

赤ん坊は普段の状態に戻り、

間もなくして、

エレベータは動き出した。

 

 

1階下のフロアに到着し、

エレベータの扉が開くや否や、

A子氏は赤ん坊を抱えながら、

ナースステーション目掛けて走り、

勢いよく駆け込んだ。

 

 

当直の看護師は驚いた表情だったが、

少しの間をおいて、

『どうかされましたか?』

と、A子氏に尋ねる。

 

 

事の経緯を説明すると、

看護師は奇妙な現象に関しては触れなかったが、

『後日、エレベータの修理依頼を出しておきます』

と答えた。

 

 

2日後、

修理業者がやって来て、点検作業をしたそうだが、

故障箇所等の異常は見られなかったのだという。

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