大学のサークルにTとM美というカップルがいた。
M美は小柄で可愛らしい顔をしている。
だが、いつも顔を隠すように髪を垂らしており、
服装も地味で、
情緒不安定だと感じさせられる言動を頻繁にとっていた。
というのも実は彼女、
精神疾患が原因でメンタルクリニックに通院しているのだ。
こういったことが原因で、
Tは常にM美を気遣っていた。
この二人は突然、ある日を境に、
サークルを辞めてしまった。
厳密に言うと、大学自体を退学してしまったのだ。
やがて、M美はどんどん精神的に不安定になり、
Tもさすがに『面倒見きれない』と、
周囲に愚痴を溢すようになっていった。
冬のある夜のこと。
Tのアパートで二人は大喧嘩をして、
Tはこの時、一方的に別れを告げた。
その後、M美は行方をくらませることになる。
そして、Tの様子もおかしくなっていった。
『口の中に髪の毛が入っている。気持ち悪い。』などと言って、
頻繁に唾を吐くようになったのだ。
やがて、この得体の知れない髪の毛が原因で、
ろくに食事も取れなくなり、
みるみるうちに痩せこけっていった。
それと並行して、
元々、人付き合いがよかったTだが、
友人達とも距離を置くようになる。
一人の友人によると、
ある日、終電を逃した際に一泊させてくれるよう、
懇願したことがあったのだが、
Tはこれは断固として受け入れず、
玄関口でやり取りをしている間中、
終始ソワソワして、上の空だったのだという。
それから程なくして、
一切連絡が取れなくなったことを心配した母親が、
Tのアパートを訪ねて来ることになる。
この時、母親は異常とも言うべき部屋の状態を目の当たりにした。
以前に訪ねた時にはあったテレビ、パソコン、姿見が無くなっている。
洗面所の鏡にはガムテープをベタベタ貼って、
鏡の部分は全てガムテープで覆われている。
部屋の窓ガラスも同様の状態だ。
母親が『これは一体どうゆうことか?何があったのか?』を尋ねるも、
Tは上の空で何も答えようとしない。
尋常ではない息子の状態を危惧した両親は、
実家に帰るよう勧めた。
というよりかは、
半ば強制的にアパートを引き払わせたのだ。
諸々の手続きを終え、
後は息子の帰りを待つばかりだった両親。
だが、待てど暮らせど一向にTは帰って来ない。
業を煮やした両親は、
かつてのTの居住アパートを訪れたのだが、
勿論そこには彼の姿はなかった・・・
その足で、警察に捜索願を提出したのだが、
未だに彼は見つかっていない。
だが、かつての友人の一人が、
こんな発言をしている。
「TがM美の地元で仲良く手を繋いで歩いているところを目撃した」
と。