高校生Y君は度々、心霊現象を体験する。
彼の住まいは東北地方で、
近所には毎年冬になると白鳥が越冬するためにやって来る川があった。
Y君はその川に越冬のためにやって来た白鳥の飛来数を数えるアルバイトをしていた。
週末を利用したアルバイトだったのだが、何分早朝からの勤務であったため、
川の近くに設置してある仮設住宅に、前日の夜から泊まり込み、
次の日の早朝に備えるという仕組みであった。
アルバイト初日のことである。
日の出とともに調査を開始するのだが、
朝、少し早く目が覚めた彼は、近くのコンビニまで朝食を買いに行こうと、
一人で仮設住宅を出た。
まだ真っ暗な川縁の道を、わずかな雪明りを頼りに歩いていると、
不自然な事に気づいた。
その川には用途不明の桟橋があり、
毎年、白鳥達はその桟橋を中心に集まって来るのだが、
その日は白鳥が桟橋から離れて集まっていた。
不思議に思い、桟橋に近づいてみると、
その日の気温が相当低かったため、桟橋の周りの水面に氷が張っていた。
その水面を眺めていると、
桟橋付近の水面にある氷に大きな穴が開いていることに気づいた。
よく目を凝らしてみると、
子供が穴の中で溺れてバタバタと、もがいているのを発見した。
「きっと氷の上に乗ろうとして、氷が割れて落ちたんだろう」
と思ったY君は、
桟橋まで走って行き、子供を助けようと真冬の川に飛び込んだ。
思ったより水深は深く、泳ぎがあまり得意ではなかったY君は、
溺れそうになった。
しかし、無我夢中で子供を助けようと姿を探したが、
何処にも見当たらない。
あまりの水温の低さに耐えられなくなったY君は、
一旦桟橋に上がり、もう一度川を確認した。
やはり子供など、何処にも見当たらない。
「おかしい!確かに子供が・・・」
そう思った瞬間、ドキッとした。
見えるはずがない。
日の出前の辛うじて道がわかる程度の明かりの中で、
誰かが溺れていたとしても、それが子供だなんてはっきりはわかるはずもない。
ましてや真冬の早朝に子供がこんな所で遊んでいるとは考えにくい。
後日、アルバイト先の先輩から、
「昔、子供が桟橋付近の川に転落して死亡する事故があった」
と聞かされたのだという。