連続放火事件

とある町で連続放火事件が発生していた。

幸い全て小火で収まっており、怪我人や死人は出ていなかった。

放火現場というと、一般家庭、会社、空き地と多岐にわたっていた。

 

そんな折、従業員50名程の零細企業が求人活動を行っていた。

即戦力になる人材が欲しかったため、「経験者」という条件を付けて。

 

ある日突然、事前連絡もなしに一人の男が『雇ってほしい』と会社を訪問してきた。

来週の火曜日に面接をするので、履歴書等の書類を持参して、

改めて来社してほしいと、その日は話を着けた。

 

面接当日のことである。

人柄や履歴書に記載されてある経験等には問題なかったのだが、

困ったことに以前の勤務先が取引先の会社だった。

 

社長『雇いたいのはやまやまなのですが、こういう状態で雇うと、取引先に「あなたを引き抜いた」と指摘され、問題になる恐れがありますので、申し訳ありませんがあなたを雇うことができません。』

 

と言って、社長は断った。

入社希望の男も『そういうことでしたらば』と意外にも納得したらしく、

大人しく帰って行った。

 

 

面接の当日より数ヶ月経ったある日、会社に刑事がやって来た。

 

刑事『Rという男を知りませんか?』

 

Rというのは数ヶ月前、面接をした人物の名前である。

社長は『知っています』と事情を説明すると、刑事はこう言った。

 

刑事『この男はここのところ続いてる連続放火事件の犯人なのですが、彼は恨みがある会社や知り合いの家に放火をしていたようなのです。』

刑事『カモフラージュのために、関係ない場所も織り交ぜながら・・・』

刑事『彼が面接に行って断られた会社も、放火の被害に遭っていまして。』

 

刑事曰く、この会社の場合、不採用の理由がRの人となりではなく、

『前の会社が取引先だから』という理由であり、

Rにとっても納得できる内容だったことから、放火の対象にされなかったとのこと。

 

Rを不採用にした他の会社は全て放火の被害に遭っているという。

もしあの時、他の理由で断っていたら・・・

『下手をすると社長一家は死んでいたかもしれない』と刑事は続ける。

 

それというのも、彼の会社は同じアパート内に自宅があり、

その上、アパートの隣にはプロパンを扱っている町工場があった。

もし、社長のアパートに放火され、隣の町工場に飛び火でもしたら、

大爆発も免れないだろうという刑事の見解である。

 

社長は『Rは放火魔なんかには到底見えなかった』と漏らす。

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