東京在住の兄弟が中国地方の親戚に『本家を継いでくれ』と執念深く迫られている。
彼ら兄弟は分家出身の人間だ。
本家とは大層な言い方だが、ただ家系が古いというだけで、
神社を営んでいるだとか、呪いの技術を受け継いでいるだとかいう類の特殊な家系というわけではない。
増してや日頃から付き合いも無いし、本家と分家で主従関係のような縛りもない。
彼ら兄弟とその両親は『なぜ、我々が?』と非常に困惑しているのだが、
本家の人間が真摯に頼み込んできている。
そもそも本家にも、彼ら兄弟より一回りくらい年上の姉弟がいる。
が、これがまずいらしい。
昨年、本家の長老である老婆が他界したのだが、
往生際にとんでもない発言をしたのだという。
老婆『自分は先立った夫が大嫌いだった。』
老婆『本当は別に好きな人が居たのだけれど、無理矢理に夫と結婚させられた。』
老婆『だからずっと浮気をしていた。』
老婆『娘は夫の子だが、息子二人は浮気相手との間にできた子だ』
娘は、結婚をしたが子供を授からなかった。
息子二人は結婚して子供を授かったが、長老の老婆の発言が真実であるならば、
本家の血を全く受け継いでいないということになる。
この発言が原因で本家は大騒ぎとなった。
『そう言われてみれば、息子二人は父親に似てない』というような意見も出る始末。
伝統もしきたりもない「ただ古いだけが取り柄」の家系ゆえに、
それしか縋るものがないからこそ、これ程の大問題になるのかもしれない。
老婆の義弟が、彼ら兄弟の父方の祖父に当たる、
という理屈で、白羽の矢が立てられたというわけだが、
当然彼らは『ド田舎の跡取りなんて絶対に嫌だ!!』という反応をした。
彼らの両親も『特に本家には義理も無いのだから、無視すれば良い』という姿勢でいる。
だが、2ヶ月に1回の頻度で、老婆の息子が手土産を携え、訪ねてくる。
虚脱しきった表情で、淡々と『お願いだから来て欲しい』と頼み込む姿が、
非常に不気味で彼ら兄弟は嫌悪感を示していた。
何度目かの訪問時に『もう来ないで欲しい』と懇願すると、
自宅には顔を出さなくなったものの、近所を徘徊していたり、
駅で待ち伏せしていたりするようになったのだという。
その後、彼ら兄弟が本家を継いだのかどうかは定かではないが、
人間の業や執念というものは、実に恐ろしいものだと思わさせられる。