T氏は中学生の頃、田舎に住んでおり、彼の家には幼少の頃から、
「絶対入るな」と言われていた部屋があった。
入るなと言われれば、逆に入りたくなるのが人間の心理で、
ある日こっそり入ってみることにした。
何て事は無い、普通の部屋だった。
変な雰囲気もないし、窓からはサンサンと日光が差し込んでいて、何も怖くはない。
「なんだ、ただ単に部屋を散らかされるのが嫌であんな事言ってたのか」
と思い、拍子抜けしてしまった。
退屈ということもあって、その場で眠ってしまった。
金縛りにもあわず、数時間昼寝して起きた。
寝ているときも起きているときも怪奇現象の類は一切起きなかった。
やはり全然怖くない。
入るなと言われていた部屋だから、怖いことの一つでも起こるのを期待していたのに・・・
部屋を出るときに、何気なく部屋に置いてあったタンスの引き出しを開けてみると、
雛人形を小さくしたような和風の人形が一体だけ納められていた。
念のため、他の引き出しを開けて確認してみたが、着物などが収納されているばかりで、
別段おかしなところはなかった。
後日、タンスの引き出しを開けたことは伏せて、祖母に「あの部屋」のことを聞くことにした。
祖母曰く、「あの部屋」はT氏の父親の妹、つまりT氏の叔母に当たる人物が
以前、使っていた部屋だということが判明した。
タンスの中の物も全て叔母の所有物。
T氏の家は二世帯住宅化する目的で、彼の両親が結婚間もない頃に建て替えられている。
その時に、少し庭を潰して増築したのがまずかったらしい。
増築した場所に建っているのが「入ってはいけない部屋」である。
つまり叔母の部屋なわけだが、どうも家を新しくしてからというもの、
叔母の様子がおかしくなったのだという。
まず最初は、『あの部屋で寝たくない』と言うようになったらしい。
叔母の話によると、新しい部屋で寝るようになってから、
どんなに熟睡していても、夜中の3時になると決まって目が覚めるようになる。
目を開けると消したはずの照明が点いており、
枕元にはおかっぱ頭の女の子が座って居るのだという。
しかし、不思議なことに煌々と点いた灯りの下で、
女の子の顔だけが真っ黒になっていて見えない。
だが、叔母はわかっていたのだという。
その女の子が笑っているということを・・・・
そんなことが1週間くらい続いた。
叔母は聡明な人格者で、最初は家族に気味の悪い思いをさせたくない、という思いから、
これらのことを自分の胸の内に収め、黙っていたそうだ。
しかし、限界を覚えた彼女は自身の父親、つまりT氏の祖父に相談した。
祖父『嫁にも行かんで家に住まわせて貰っているくせに、この大事な時期(T氏の両親の結婚時期)にふざけたこと言うな!』
祖父『出て行きたいなら出て行け!』
だが祖父は冷酷にも叔母に対して、こう言い放ち、突っぱねたのだという。
それから半月程経って、祖母はふと娘(叔母)の話を思い出した。
近頃は娘が気味の悪いことを言わなくなったし、
一日中、妙に優しい顔でニコニコしていたものだから、
もう新しい家にも慣れて変な夢も見なくなったんだろう、と安心していた。
そして、会話の途中で祖母は娘に聞いてみることにした。
祖母『○○、もう大丈夫なのかい?』
すると娘はニコニコしたまま、こう答えた。
続く